中村扇雀の公式ブログ

「「河庄」小春」

2010年12月30日

南座の顔見世興行も26日に盛況のうちに千秋楽を迎える事ができました。
ご観劇下さった皆様この場を借りまして御礼申し上げます。

又、本日松竹座公演の舞台稽古が終了しやっと今年の仕事納めです。

今年は11ヶ月舞台に立ちました。松竹座の「仮名手本忠臣蔵」塩谷判官に始まり、歌舞伎座さよなら公演やコクーン歌舞伎での「佐倉義民伝」8月の「暗闇の丑末」
後半9月からは西日本の巡業、10月11月は大阪城での平成中村座12月は京都南座1月は大阪松竹座と5ヶ月間東京を離れています。
歌舞伎座建て替えの為に各地での公演が増える事はとてもすばらしい事だと思っていますが、ホテル生活が4ヶ月目になるとさすがに精神的に休まる事がなく、本音を言いますとつらい事もありますが、舞台でお客様の前に立ちますとすべてを忘れ芝居に没頭してしまいます。

今月からブログを始め、役者自身の考えや気持ちを直接皆様にどこまでお伝えるすべきか分かりませんが、これから芝居についての私の考えを折に触れお話していきたいと思います。

12月公演の千秋楽の翌27日よりすぐに大阪松竹座初春興行の稽古に入りブログの更新ができませんでした。
やっと稽古が落ち着きましたので、まず12月の舞台の事を少しお話したいとます。

舞台を観て頂いてない方には退屈な話です。申し訳ございません。

12月の顔見世は「河庄」の小春を初役で勤めさせて頂いた事が私にとって、大きな喜びでした。この狂言は、私の先祖鴈治郎家にとりまして最も大事な狂言の一つです。
上方歌舞伎の代表的な狂言「吉田屋」伊左衛門・夕霧「封印切」忠兵衛・梅川「曾根崎心中」徳兵衛・お初と共に、男女の役を既に経験済みでしたが、この「河庄」は治兵衛は勤めましたが、小春は初役でした。
上方和事で立役は「吉田屋」伊左衛門、女方はこの小春が最も大事な役の一つであると父から聞いておりました。
曾祖父初代鴈治郎の生涯のあたり役である治兵衛の相手役この小春は、まず死を覚悟している事から始まります。絶望の淵に立った時、愛した男性との死を決意しますがその相手の奥様からの一通の手紙をきっかけに、気持ちが離れたと嘘をつき相手の男性を奥様の元に返そうとします。後半の約30分はじっと下を向いてほとんど台詞はありませんが、その間治兵衛の台詞を聞きながらすべての言葉にじっと一喜一憂します。この場面になる迄の約二年半のことが走馬灯のように頭を横切ります。勿論、舞台ではそんな場面は無く、原作にもその場面は書かれていませんが、私の脳裏に創作されていきます。
初めて会った瞬間、起請文を取り交わしお互いの気持ちを確かめ合った瞬間等が頭に浮かんできます。
しかし、義太夫の狂言はまず義太夫の勉強から始まります。歌舞伎で義太夫の狂言のお役を頂くと、私まず基の義太夫を聴きます。まそれが原典になっているからです。勿論お人形と人間の動きは違いますからそのまま歌舞伎に移しては上演できません。しかし、台詞の言い回し義太夫訛りや役の性格、人物像は勉強するべき重要な事だと考えています。
小春のお役は今回演じさせて頂き前半から苦しい部分が続きますが後半の台詞の少ない部分が非常に感情が動き、死を覚悟する人物ですので演じていて大変に楽しいと言っては語弊がありますが、どっぷり小春になれる時間帯でした。本心を隠す事があまりにつらく、治兵衛に「犬、猫、人の皮着たどどどど狸め」とののしられる時じっと我慢して呼吸が止まり気が遠くなりそうになります。治兵衛の台詞が終わり一間あってやっと呼吸が出来ます。
また起請文を「焼きなりと破りなりと・・・どうなと勝手にしとくなはれ」と兄の孫衛門に言っている時も呼吸がずっと止まっています。
治兵衛の「あんなおなご思い切りました」「早よ帰りまひょ」の二言はポイントだと思います。思い切ったという言葉で奥様の言葉に報いれたという気持ちとこんな言葉を言われてしまったという悲しさ。又、後の台詞で全てが終わったという絶望感と一人で死のうという決意が浮かんできます。日によってほっとして口元に笑みが浮かぶ時もあれば、すっと涙が浮かぶ日もあります。
治兵衛がいったん外に出て戻って来る数分の間は29ヶ月二人の時間が浮かんできています。
治兵衛が戻って目が合った瞬間はいフッと現実に戻り、顔を背ける時も消えていない愛情を隠すことがつらく嗚咽が漏れそうになりますが、決して治兵衛に悟られまいとする事が苦しい瞬間です。毎日父の治兵衛を肌で感じその日その日で毎日オンタイムの出来事として演じることに集中致しました。
上方の役者は手取り足取り教わらず自分で勉強してきた事をだめだししてもらうことが常になっています。
父の治兵衛にを至近距離で感じ最高の教科書を間近に体験できた事が今年数多く増えた財産の中で最高の財産でした。

芝居の事を書き始めたら終わりが無い事に気づき、年を越しそうなので次回にまた勝手なお話させて頂きます。

一年間の皆様への感謝の気持ちを込めて

2010年12月30日11時48分24秒.pdf009.jpg                                     撮影:福田尚武

よいお年をお迎え下さい。

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コメント

明けましておめでとうございます。
先月の顔見世で歌舞伎にはまり、大阪松竹座初春興行を18日(午前の部)に観劇します。
今回のブログで小春を演じられた際の心情を垣間見ることができ、観劇したばかりの私にとって大変興味深い話でした。歌舞伎はまだ観始めたばかりなのでこれから色々と勉強していきたいです。
お稽古頑張って下さい。

明けましておめでとうございます。
ブログ楽しみに拝見させていただいております、顔見世舞台今回は昼の部だけの観劇で残念ながら河庄見ることができませんでしたが、まるで舞台を見たような気分になるほど小春の心情を詳しく現したブログを読み感激と共に扇雀さんの仕事(歌舞伎)にたいする熱い思いがこちらにも伝わってきました。
明日からの松竹座も楽しみにしています。ではまた

明けましておめでとうございます。
昨年、歌舞伎を初めて観劇してからすっかり虜になってしまいました。
中村座・南座・松竹座と昨年から扇雀さんにお会いしない月はないです。
お体に気をつけてください。
今年も素敵なお芝居楽しみにしています。

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