中村扇雀の公式ブログ

「「碁盤太平記」上演にあたり」

2015年4月10日

今回、兄の四代目中村鴈治郎襲名披露歌舞伎座公演で玩辞楼(がんじろう)十二曲の1つ「碁盤太平記」を40年振りに上演することになりました。

昭和50年1月歌舞伎座以来の上演で父は一度も手がけていません。
40年前は祖父の二代目鴈治郎が上演して、それ以来歌舞伎公演では一度も上演されていません。私も40年前の1月歌舞伎座での上演でしたが直接見てはいません。

歌舞伎の演目は松竹の歌舞伎制作(プロデューサー)の方の提案と役者さんとの話し合いで決められていきます。役者から演りたい演目を持ちかけることもございますが今回の「碁盤太平記」は私自身も以外な提案でした。

まず主役は大石内蔵助で私のニンに合っているのかということと資料が映像は無く舞台の録音がかろうじて残っているだけということ。いつもの公演ですとお稽古が3、4日間しかないことなど不安要素は沢山あります。ただ、生涯をとおして曽祖父の残した"玩辞楼(がんじろう)十二曲"は継承していきたいと願っていたので上演可能かどうかの検討を始めました。

かつて初代鴈治郎の弟子で中村松若という役者さんがいました。彼は師匠の演目について台本に動きを細かく記した松若本と俗に呼ばれている物を残していました。それらは松若さん没後に国立劇場に寄贈されと聞いていたので早速旧知の国立劇場の石橋健一郎さんに尋ねてみました。石橋さんは膨大な資料の中から実物はなかなか見つからないがそれを印画紙に焼いてある物を見つけて下さり、プリントアウトして下さいました。そして、50年1月の上演記録の写真も数点出てきたこと、その時の演劇界に「舞台づくり記録と芸談など土岐迪子」として演目のことが細かく記してある資料があったこと。劇評ものこっていること。石橋さんが上演記録を調べて下さり大正2年11月新富座、大正12年11月中座、大正15年3月歌舞伎座それぞれの「芝居見たまま」の記事が演芸画報に残っていること。近松門左衛門の原作があること。

以上のような資料が揃うことを確認して上演映像は無くとも復活は出来ると確信して上演に踏み切りました。

共演の皆様には上記の資料全てを渡して頂くように松竹の方にはお願いをして通常の稽古より1日多い5日間の稽古日を取り初日の稽古を読み合わせと言って座ったまま台本を読むだけの稽古に当てることに致しました。そこには竹本さんや下座音楽の長唄さんや鳴物さんにも参加してもらい本番と同じ流れで動きや出入りを確認しつつ稽古を始めました。

残りの4日間の間に2日間は稽古場で立ち稽古、残りの2日間は舞台にて稽古最後の1日だけ全員衣裳と化粧をして本番通りの稽古となります。

勿論初演はゼロからのスタートですので並大抵の苦労ではなかったと思いますが、日にちもあり、また初代鴈治郎は新しいものを作ることが大好きでしたので松竹の創業者の1人白井松太郎氏と二人三脚で次から次へと新作を作り上げていきました。そんな中この作品も最初は近松門左衛門の原作に沿う形で上演されましたが渡辺霞亭の手が加えられて原作とは全く違った作品に変化していきました。そこには初代鴈治郎の工夫とアイデアが凝縮されていますが、全てお客様に楽しんで頂く。また、自分自身が作品の良さをより出すために手を加えていくそして何よりもリアリティを目指すといったことから改訂が加えられて来ました。

私も今回準備をしている時に、亡くなった勘三郎のお兄さんと私も数々の新しい作品を作ってきたその経験と初代鴈治郎からのDNA が駆り立てたのだ強く感じました。

かくて短い準備期間で初日は開きました。

今回の資料です。

IMG_0584.jpgのサムネール画像

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コメント

今日これから昼の部の観劇です。直前にこの話を読めて、より楽しみです。

高野 早苗さん

感想をお聞かせ下さい。

はじめまして 南座の上演を楽しみにしている吉岡宏敏です。師走に忠臣蔵の上演があればいいのにと思っていましたので、南座がとても楽しみです。特に山科閑居は京都らしく落ち着いてた雰囲気の中での掛け合いがスリリングで いいですね。碁盤太平記が 歌舞伎の忠臣蔵の原型と知ることができまして、また、扇雀さんが演じられることも興味津々です。どうぞ、ご自愛の上 ご活躍願います。(^^)

宏敏さん

ありがとうございます。内蔵助を務めることは歌舞伎役者にとっては身の引き締まる思いです。

扇雀さん、本日、昼の部を拝見しました。碁盤太平記というのが、ぴんとこなくて、こちらのブログを先に見せていただき、楽しめました。

40年ぶり再演、ほんとうに頭が下がります。そうやって伝統芸能を伝えていかないと続きませんから。内容も楽しめました。昨年の藤十郎の恋とはちがう、大石内蔵助。碁盤の目で吉良邸の様子を教えられ、最後の親子の別れがよかったです。

りくが傘を手渡して、離さないしぐさ、暗がりの中で手をとる場面。和物の要素が隠されていて楽しかったです。ブログにも書きました。お時間のあるときご覧ください。

真由美さん

ご観劇ありがとうございます。歌舞伎には埋もれた作品も数多く有りますのでこれからも新作を含めて皆様に楽しんで頂けるものを世に送り出したいと思っています。

扇雀さん、12月23日の昼の部たっぷりと見せていただきました。碁盤太平記は文楽では見た事がありましたが、やはり歌舞伎では40年ぶりなんですね。その頃は若くて歌舞伎には行けませんでした。仮名手本とは違う内容で近松作という事で納得いたしました。気になって調べようとこのページを見つけた次第です。内蔵助とても感動いたしました。今後も埋もれた作品の発掘と新しい挑戦をお願いします。

京子さん

仮名手本忠臣蔵より先んじて作られた作品です。今の時代に上演するにあたってそれなりに脚色はしています。これからも色々な作品をお見せしたいと思っています。

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