「十月国立劇場再開」
2020年10月 1日
コロナ禍で生活が一変し、町に出れば殆どの人が思い思いのマスクで顔を覆い行き交っている。映画のロケを敢行している様な風景が当たり前になって半年は過ぎようとしています。
8月より再開した歌舞伎公演が正常な状況で上演されるのはいつのことなのだろう。
6月の国立劇場で、松緑さんと歌舞伎鑑賞教室で共演する予定だった公演も中止となり、その国立劇場の歌舞伎公演が当月めでたく再開され、国立劇場へ当初の予定より4ヶ月伸びての出演となりました。演目や出演者は変わりましたが、8月の歌舞伎座の再開時に続いての出演は嬉しい限りです。
演目は「ひらかな盛衰-源太勘当-」
今回の腰元千鳥の役は初役。
二十代半ばの時に公文協の巡業で父が演っていた時の印象が強く残っている。源太は梅幸の叔父さんで平次が富十郎のお兄さん。そして母延寿は先代の権十郎の叔父さんが務めてらっしゃいました。父は五十代半ばですので今の私より少し若かったと記憶しています。
可愛らしい腰元でした。義太夫の糸に乗っての芝居をワクワクして見ていたのを今でもはっきり覚えています。
初役の今回は、まず義太夫の演目の時はいつもやる手順として文楽の同演目を勉強することから始めます。映像、あるいは録音を床本と照らし合わせながらまず見たり聞いたりします。そして、歌舞伎の上演台本と照らし合わせます。
同演目でも歌舞伎の脚本はだいぶ脚色されていることが殆どです。脚色と言っても歌舞伎の入れごとという言い方をしますが、役者が自らの口でセリフを言いますので、歌舞伎独特のおかしみの部分ですとか、また、長い説明部分や主役の人物以外の説明台詞はは多少省いたりもしています。その元の部分の確認が最初の作業です。
次に自分が努める役の役柄や雰囲気を大夫さんの語りから感じとります。そして、人間として努めるときの参考にします。いわゆる役作りと言うのでしょうか。
そして、義太夫訛りを勉強していきます。
これが済んだ段階で歌舞伎の準備です。
役の動きですが、祖父の弟子であった故中村桜彩さんが父の為に細かく動きを書いたノートが残っています。これは曽祖父初代中村鴈治郎の弟子であった故中村松若さんという人が松若ノートというものを残していて(碁盤太平記を復活した時には大いに役に立ちました)それを見習って作られたものです。日本舞踊で言う踊りの譜のようなものです。
それを参考にイメージを作り次はビデオ映像という現代の力を使います。
今回拝見した腰元千鳥は先代雀右衛門の叔父さん、勘九郎時代の哲明さん、澤村藤十郎さん
、芝雀時代の現雀右衛門さん、今回延寿を努められる魁春のお兄さんと5人の方の千鳥を拝見しました。父の映像は残っていません。脳裏には微かに残っています。
以上の準備で自主稽古をして稽古に臨みます。
昨日と今日の2日間が附立と呼ばれ、稽古着でお稽古をいたします。この附立の意味は狂言作者(拍子木を打ったり、演目を書いたり)がセリフを付けてくれるという意味です。この稽古ではセリフをもし詰まったときにはその場でセリフを付けてくれます。英語で言うプロンプターの役目です。
この2日間が終わると、明日は舞台の上で道具を飾っての稽古ですが、まだ稽古着のままです。明後日の初日前日に初日どおりの舞台稽古が行われます。
計4回の稽古で初役ですが初日を迎えます。些かハードですが、現実です。
4日の初日に向けて稽古の録音を聞き返して復習し備えます。
義太夫狂言らしさを大切に千鳥を作っていきます。
今回の参考資料
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