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2021年7月記事一覧

「「関西・歌舞伎を愛する会 第二十九回 七月大歌舞伎」」

2021年7月18日

7月3日に2年振りに松竹座で関西・歌舞伎を愛する会の公演が初日を迎え1年半ぶりに松竹座の舞台に立てたのは本当に本当に感無量です。
コロナ禍で恒例の船乗り込みもなく劇場も花道の横4列縦全て空席で、その他も虫食い状態の客席で大向うなし続いていますが、歌舞伎公演を再開できた事に意義があると思っています。
ただ、大阪での再開を心から望んでらして出演予定だった秀太郎のお兄さんが逝去され、そのお姿に舞台上でお目にかかれないとは思ってもいませんでしたの、残念でなりません。
改めてご冥福をお祈りいたします。

その楽しみにしていた初日2日前に兄の鴈治郎が濃厚接触者認定の可能性があるので稽古を休むと連絡が入りました。稽古は6/30.7/1.2の3日間しか予定されておらず、その2日目の7/1の稽古は伊勢音頭のお鹿を千寿さんそして、新口村は忠兵衛と孫右衛門の部分は全て中止で万歳、才造の部分だけの抜き稽古となりました。
急遽PCRを受け直し結果を夜まで待って下さいとの指示が出ました。
しかし濃厚接触者の認定を受けると陰性でも14日間の隔離待機となる為休演をしなくてはいけません。楽屋内では代役の話が持ち上がり、仁左衛門のお兄さんがあんたがやったらええやんとおっしゃていて、私自身も芝居は熟知していますし、身内のことで周囲にご迷惑をかけたくない気持ちもあり、梅川は壱太郎と思ったのです。松竹の制作の方ともすぐに話し合い濃厚接触者の認定となった時はその方向で動くことが決まりました。果たしてその晩の21時過ぎに決定の連絡が入り、初日前日の7月2日の舞台稽古一回で初日を迎えることになりました。
こうしてコロナの影響でで思わぬ展開となり、久しぶりの忠兵衛と初役の孫右衛門の2役勤めることとなったのです。

さて、舞台の話に移りますがまず昼の部「伊勢音頭恋寝刃」万野のことについて。

この役は祖父の二代目鴈治郎が素晴らしかったと多くの方がおっしやっていて私もお手本にしようと思っていました。しかし数ある映像資料を調べても劇場の映像が残っていませんでした。そうなるとなんとしても手に入れたくなり自分の記憶に中にNHKのスタジオ撮りで父が福岡貢を勤めた時の万野が祖父であった記憶が蘇り、問い合わせをしたところありがたいことに過去の「芸能百選」の資料が手に入りました。祖父が手を回してくれたかのように。そこには今回多くの方「歌右衛門さん・芝翫さん・徳三郎さん・玉三郎さん・福助さん」の万野を拝見していたのですが、皆さんそれぞれ独自の色をお持ちでしたが祖父の万野はそこに仲居の万野その人が座っています。うまく言えないのですが演じているというよりその人がいると説明したら良いのでしょうか。
その映像からいくつかのヒントを得ることができました。
特に仲居であって女将さんではない。変にねちねちせずサラッとしている。もしかしたら貢に岡惚れしている。うちわの使い方。間合い。等々
団扇を皆さん役者絵の派手なものを使われますが、他の仲居と同じ音頭で使うものを使用する。前掛けも他の仲居さんと同じ赤にする。これは映像は違ったのですが、祖父の弟子だった寿治郎が教えてくれました。ほかに貢に向かい「どうなとし、どうなとし、とうなと、しいな。」を最後「どうなと、しいな」と「お」を入れています。そこは踏襲しています。とにかく岩次・北六からはおそらく多くの祝儀をもらい貢をはめることに腐心することが眼目です。お客様から憎まれれば憎まれるほど貢が立ちます。そういう役回りだと思っています。初日が開いて日を追うごとに楽しくなってくる役ですが幸四郎さんファンから憎まれれば憎まれるほど役のやりがいを感じる役で初役ですが、道の先に祖父が見えたような気がしています。

仲居 万野

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写真:松竹

「新口村」
今回は孫右衛門・忠兵衛・梅川の3役を同じ劇場で同じ月に務めるという珍しいケースとなってしまいました。

梅川は父の相手役としては最後の役でこの役もさわりと呼ばれる部分は役者さんによって動きが違っています。ということは完成品がないということでそれが芝居の面白さなのでしょう。今回も非常に細かい部分で変えているところはいくつもあります。また、義太夫狂言ですので竹本さんとの連携が最も重要になってきます。そこで特にポイントは心。歌右衛門のおじさんがいつも仰っていた「おなか」「はら」役の気持ちです。演奏者の心も演者と同じ心にならなくてはいけません。義太夫狂言は明らかに音楽劇ですからその間合い・強弱・リズムが噛み合わなくてはいけません。節が伸びるのも好きではありませんし、故竹本住大夫師匠のお稽古でも特に息を積むことを指導され父もその部分を特に重視していました。

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写真:松竹

忠兵衛は2度目ですが父の忠兵衛を思い出しつつ、昭和57年の祖父の最後の忠兵衛の舞台も見直し務めました。故郷に来た哀愁が出せればと思っています。

久しぶりに頰被りをしましたが曽祖父の初代鴈治郎が「頰被りなかに日本一の顔」と謳われたように我が家にとってとても大事な姿です。床山さんに髷の上の部分でピンで留めてもらい左右を順番に捻り左の頬で自分で結びます。顎の下に少しかけるのが案外むづかしくセリフを喋ると外れそうになるくらいの位置なのです。これをすると治兵衛がどうしても演りたくなるのはDNAなのでしょう。

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写真:松竹

孫右衛門は今回ほぼ自分自身で作りました。心の動きの流れを時系列でリアルに追うことに重点を置き役を作っていきました。忠兵衛が罪を犯して逃亡していることを知り家への帰路見ず知らずの女性がやけに親切にしてくれ、それが忠兵衛の相手と気づき陰で忠兵衛が聞いていることを前提に胸中を吐露していきます。縁を切り養子に出したが実子への愛情が溢れ出る述懐です。そして親子の対面・別れへと繋がっていく悲劇のど真ん中にいる初老の男。忠兵衛と梅川も悲劇の中心にいますが、僕は封印切りからのこの二人は悲劇には違いないが二人にとっては二人だけの世界になれたハッピーエンドの側面も感じるべきだと。つい最近本当に久しぶりに東京宝塚劇場で「ロミオとジュリエット」星組公演を見てきたのですが、二人の悲劇が死後のダンスでハッピーエンドに見えてくる感覚を近松門左衛門の作品の中に見い出してもいいのかなとも考えています。

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写真:松竹

初日から9日間「忠兵衛・孫右衛門」13日から6日間「梅川」という変則公演となった今月も今日が千穐楽となりました。
兄の鴈治郎も13日から無事に復帰し安堵しています。

通常よりは短く各部2本の作品で大向うもなく、飲食も制限していただく中、お客様にはご迷惑をかけましたが、幕が開いた喜びを共有できたことに感謝しています。

ご来場の皆様御礼申し上げます。

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